以前の日記で述べたのだけれども、Nightworkとは六本木のホステスクラブで実地調査を行ったAnne Allisonという人類学者が書いた本のタイトルだ。なんら深い意味もなくただ前のホームページを作ったとき手元にあったので頂戴しただけ。さっきYahooで”Nightwork”と検索したらこのブログがトップに出てたのでびっくりした!(ちなみに二番目はAmazonの宣伝で残りは風俗業のホームページだった。)Anne Allison(Duke大学の教授)とは顔見知りなので、もし彼女にこの事実が知られたら少し困るかも、、、。
さて、じつは今日のテッド(担当教官)のゼミでは本物のNightworkが宿題で出されていた。レポートが終わらなくて30分ほど遅れて行ったのだが、ドアを開けるといきなりテッドが「あらFumiさん、今日は何か残業でもあったのですか?おしぼりどうぞ」と日本語でホステスの物真似をしてきた。遅刻の理由を完全に見透かされたうえギャグで攻められたので返す言葉がなかった。ハーバードの教授は手強い、、、。 本の内容を述べると、ただホステス業界の裏事情を暴露しているのではなく、ホステスクラブを企業文化の枠組み内で捉えてジェンダー論を展開している。Allisonはバブル最盛期の1991年に4ヶ月間自らホステスとして働き、その後1年間サラリーマン家庭を対象にしてインタビューを行った。従ってホステス/男性客、女性社員/男性社員、妻/旦那、母/息子という4つの異なる男女の関係においていかに女性の社会的役割が構築されているかを主題に置いている。 少し寄り道なのだけれども、人類学がなぜ”儀式”について研究しているかをいきなり説明したい。トーテムポールをご存知だろうか?トーテムポールは各氏族を象徴する動物とその起源を表す物語が丸太に刻まれており、カナダ西岸の部族は年に一度トーテムポールの前に集まり儀式を行う。 その儀式では各氏族がトーテムポールに刻まれている動物の真似をして起源神話を再現させる。そして、その儀式に従ってお互いの社会的役割や義務を再確認する(例えば、熊氏族の人はカワウソ氏族の人達に鮭の干物を10匹プレゼントしなければいけない、とかね)。 つまり、儀式を通じて既存の認識体系を具現化させ、人間関係の間に決められた社会基準を強化させる、ということが言える。これが人類学者がアマゾンの部族とかに行って儀式を研究してきた一般的理由だ。(もし儀式についてもっと詳しく勉強したい人はデュルケイムの「宗教の原始形態」の最終章を読むことをお勧めします。) 話をNightworkに戻そう。Allisonははっきりと儀式の効用について述べてないのだが、彼女はホステス/男性客の間で交わされる所作を”儀式的”として描き、そこで具現化される社会基準が他3つの男女関係における役割を規定する、という大胆な解釈をほのめかしている。 では、クラブ内で行われる儀式とはなにか? (1)男性に奉仕する儀式:水割り作ったりライターに火をつけたり (2)女性を性的に蔑視する儀式:おっぱいトーク (3)甘えの儀式:包容力のあるママさんに悩みを打ち明けたり (4)男性の間の序列を無くす儀式:ホステスクラブ内では無礼講OK (1)は妻/旦那、(2)は女性社員/男性社員、(3)は母親/息子の関係にそれぞれ当てはまり、そして(4)は男性社員がクラブ内で序列関係を緩めることで、逆に仕事中の厳しい序列関係を耐えることができる。つまりこの儀式を通じてサラリーマン家庭におけるジェンダーの役割が以下のような機能を果たすよう規定されていく。母親になると、脱性化され、企業に勤めることもできずただ子供と旦那に尽くすだけの役割しか認められなくなる。そして、男性は女性を排除した同胞意識を会社内で築き、稼ぎ手として家庭に尽くす代わりに、性的関係を家庭外に持つ事が許される。すなわち二項対立的に基準が強化されていく。 面白いのは旦那がクラブに通っているような主婦の方々にもAllisonはインタビューをしていて、彼女達がその事実を知っていても知らないふりをする点を述べている。つまりは、旦那を責めることができないほど、強力なイデオロギーとして社会基準が浸透しているわけだ。アメリカ人にとってはこの点が不可思議で仕方ないようだ。 ホステスクラブを逸脱行為として捉えず、企業文化の重要な儀式的要素として捉えた点がNightworkの画期的な点だと思う。 さて、おそらくここまで読まれた女性の方はとても憤ってておられることでしょう。 もちろん、Allisonは性差別を肯定するために書いたのではなく、性差別が生まれる構造を客体化して読者に批判的な目をもつことができるよう示唆している(余計なお世話だ!って人もいるかもしれないけれど)。ただ、批判点を挙げるとすると、あまりにもホステスが機械的な役割しか果たしていないので、もっとホステスの女性達が自分の仕事についてどう思っているのか、書いて欲しかった。あと、彼女の述べる企業文化はバブル時代には通用するが、果たして今も同じ事が言えるかとなると疑問だ。 たしかAllisonは「日本における怪獣アニメ」について新著を出版する予定だったと思う。今年の2月頃、このタイトルでハーバードで講演を行い、その後テッドに連れられ一緒に食事をした。大学に入る前に世界一周旅行をしたヒッピーだったので、自らホステスになって調査をするような度胸が生まれたのかもしれない。そして、やっぱり美人で一挙一動がとても優美でした、、、。
by fumiwakamatsu
| 2004-11-02 07:27
| 文化人類学
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