加齢臭は嗅げるのか?

先日、ある女友達と飲んでいたとき「電車の中の加齢臭って嫌だよね」という話になった。最初
は加齢臭のことを「カレー臭」だと勘違いしていて、週三回カレーを食べている身としては「ひょ
っとするとカレー食い過ぎたら出て来る体臭なのか?」と焦ってしまった。後に誤解に気付きホ
ッとしたのだが、そんな言葉、自分が渡米する前には聞いたこと無かったので驚いた。でもこれ
は面白い文化的現象だと思う。

おそらく加齢臭という臭いは日本にしか存在しない。以前にも書いたと思うけど、味覚や嗅覚と
いう曖昧にしか認識出来ない感覚は、対象となる味や臭いを表す言葉があって初めて認識出
来るものである。例えば、日本語では「旨味」という言葉を使って海産物などから取れたダシの
味を表現するけれど、そんな言葉のないアメリカ人は、同じものを食べたとしても「旨味」を識別
することはおそらく無理だろう。同じように、「加齢臭」という言葉のない社会では、中高年の醸し
出す不快な体臭を嗅ぎ分けることは出来ないだろうし、そんな臭いが存在するなぞ思いもしな
いだろう。日本国内ですら、若い女性は敏感に加齢臭を嗅ぎ取れるかもしれないが、男性は鈍
感かもしれない。こう考えると、加齢臭を嗅ぐことの出来る人間は地球上でも限られた極少数の
先鋭集団だけなのかも。その名誉が嬉しいか悲しいかは別として。

しかし、何故「加齢臭」いう言葉がごく近年の日本で生まれたのだろうか?自分が思うには、1)
電車通勤という男女の身体が密接に接する公共空間が日常にある、2)「サラリーマン」というカ
テゴリーに区別される中高年男性は否定的なイメージで表象されやすい、3)消臭効果のある
商品が差別化を図るために、ある特定の臭いを「敵」として宣伝した、などの原因が挙げられ
る。たしかに加齢に伴い新陳代謝の速度が遅くなることで、細胞の腐敗臭がきつくなる、という
生物・物理的な側面があるのかもしれず、全ての人類がそのような体臭を醸し出すのかもしれ
ないが、日本で「加齢臭」という言葉が定着したのは上の理由に依るのではないだろうか。バラ
の香りになれるガムや飲み物が販売され出したのと、加齢臭という言葉が出てきたのが同時期
なのも考えてみて貰いたい。

こう考えると、我々が普段何気なく認識している臭いというのは、ある社会のある時期に偶然作
り出された結果なのかもしれない。ただ個人的には、将来娘にファブリーズをぶっかけられる日
が来ると思うと、憂いてしまう。
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by fumiwakamatsu | 2007-12-10 15:54 | 文化人類学
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