発掘された民族の証

今日、とある研究者と一緒に昼食をする。

宗教学を専攻している彼女は昔、イスラエルに行って発掘調査の手伝いをしたことがあると言
う。旧約聖書に出て来る記述に基づいて、2000年前にあるユダヤ人の集団が居住していたと
される場所を掘っていたそうだ。

土を掘り始めて行くうちに時代によって異なる層が出来ていることがわかる。ある層には明らか
にアラブ系の民族が住んでいたときの遺品が発掘されるのだが、それらは何の価値も与えら
れず、対象となっているユダヤ人の居住年代の層だけを精密に調査して行くそうである。そし
て、その層から壷や皿など当時の遺品が出て来ると、旧約聖書の正しさを証明する証、つまり
は、その土地には元からユダヤ人が住んでいたという証として学問的な正当性が与えられる
ことになる。

イスラエル政府もこのことは理解しており、どの場所を何メートル掘るのか、限定してからでな
いと調査許可を出さないそうである。また、もし”聖書通りの”遺跡が発掘されたならば、その
場所をユネスコの世界遺産として認定するよう働きかける。世界遺産は、どの民族に遺跡が
所属しているのか、明確に認定することになるので、結果として、発掘された場所が国際的に
イスラエルの所有として認定されることになる。

この事例で面白いのは、まず旧約聖書というテキストを前提にして発掘物の価値を決めてい
る点であり、その前提に沿わないものは何の価値も与えられないことである。さらには、国家の
領有権を証明するために考古学が密接に結びついており、地面に埋められているものが領土
の証明として政治的に利用されてしまうことだ。

じつはイスラエルにおける考古学とナショナリズムの関連性について研究したパレスティナ人
の人類学者がいて、その研究はFacts on the Ground という本にまとめられている。でも、今
回友人の話を聞いて驚いたのは、アラブ人のものとされる発掘品は、どれだけその時代が古
くともゴミのように扱われるそうである。実際、アラブ人が住んでいた時代の層からある土器の
破片が見つかったそうだが、イスラエル人の調査団長は、それをお土産として彼女にプレゼン
トしたそうだ。Thank youという謝辞を破片の上に書いて。
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by fumiwakamatsu | 2007-04-08 21:29 | 文化人類学
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