アラバマの盲人5人

先ほどI-Tunesで買い物をしていたら懐かしい曲に出会った。
The Five Blind Boys of AlabamaというゴスペルグループのHushという曲。
名前の通り、アラバマから来た目の見えない5人の黒人のおじいちゃん達が歌っている。

じつは大学でゴスペルを歌っていたとき、赤坂Blitzでこの人達の前座を務めたことがあった。
なぜか別のバンドのコンサートが本番2週間前にキャンセルされ、たまたま日本に来ていたこの
おじいちゃん達が代役をすることになった。しかし知名度がないので、集客数を増やすためにも
うちのサークルが前座に呼ばれたのである。Blitzなぞめったに入れないのでこちらも願ったりだった。

当たり前だが、2週間前に出演が決まったところで客など来るはずがない。収容人数数千人の
Blitzに20人くらいしか客は入っていなかった。暗く閑散としたホールに向かって、大声で歌う
ほど、コダマで帰ってくるのが皮肉だった。歌っている人数の方が大きいなんて初めてだった。

プロデューサーの方に歌い終わった後は観客席に移って場を盛り上げてくれと頼まれていた。
「目が見えないからわからないだろう」とのこと。言われてたとおり最前列に総勢70人が
向かう。そして、目の見える白人のおじさんが先頭で引導しながら、肩に手を当てて一列に
なって5人のおじいちゃん達が登場してきた。マイクの置かれた椅子に彼らが座り終わる
まで、我々は必死になってはピー、キャー声を騒ぎ立て「満員御礼」を装っていた。

歌は古きのどかな南部の黒人聖歌。正直なところあまり上手いとは言えなかった。
それでも低音の深さやしゃわがれた声が格好よかった。歌が盛り上がると、興奮し出した
おじいちゃんがいきなり立ちあがったり、本人は正面を向かって歌っていると思っていても
体が横に向いてしまったりと、マイクから離れてしまうことが何度かあったので、こちらは
見ながらハラハラしていた(その都度一緒に歌っていた白人のおじさんが直していたんだが)。
なんだかんだ言っても最終的には歌に引き込まれ、サクラであることを忘れて熱狂していた。
出てきたときと同じように列を作って彼らが退場したときは、皆心の底から拍手を送っていた。

その後楽屋に戻り、おじいちゃん達と皆で挨拶を交わす。楽屋の片付けをしている際に
1人トイレに向かうと、おじいちゃんの1人が廊下で手すりにつながりながらウロウロしていた。
「どこに行きたいのですか?」と英語で話しかけるとトイレを探しているということなので、手を
引いて一緒に向かう。便器の前に立たせ、「ここで大丈夫ですよ」と言うと「ありがとう」と返事
される。ちゃんと的に当たるのを見届けながら、こちらも横の便器に立って小便を始めた。

そのとき、おじいちゃんが「Hush,Hmmmm~、mmm~、Hush」と口ずさみ始めた。
ゆったりのんびりと彼の深い声がトイレにコダマする。尿意が消えていく心地良さも手伝ってか、
彼はとても幸せそうだった。サングラスのせいで表情は見えなかったが目尻は笑っていた。
こちらも彼の低音が腹に響いたせいか、勢いよく出しながら歌声に聞き入っていた。
2人で、ジョーッ、としぶきを上げてバックミュージックを演奏しながら作ったステージ。

最後に彼が「Hush」と歌い切ったところで、2人とも小便が止まった。静まり返った中、
何を話かけてよいかわからず、とりあえず「ありがとうございます」と言ってみた。
すると、「いや、こちらこそありがとう」と返事をされた。

帰りはサークルの友人達と赤坂ラーメンに向かった。寒いにも関わらず外の屋台で
豚骨ラーメンを啜った。満腹感で幸せ一杯になりながら、赤坂から四ツ谷までの
道のりを歩いて帰る。もちろん、「Hush,hmmmm~、mmm~、Hush」と口ずさみながら。





(この話は先ほど小便をしながら過去に訂正を加えて考えたフィクションです。)
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by fumiwakamatsu | 2005-10-09 03:27 | 雑記
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