フィールドワーク心得

現実逃避を兼ねてエヴァンズ・プリチャード(以下EP)の「アザンデ」を読んでいた。
今まで気付かなかったのだが、過去のフィールドワークを追憶・再考した10ページ
ほどの付録が巻末に載っていた。少なくとも3つの部族(ヌアー、アザンデ、ベドウィン)で
フィールドワークを行った経験豊富なEPだけにためになる話が満載されている。

人類学ではフィールドワークがほぼ義務化されているのに、ほとんどの大学院で
その方法論を教えない。答えは簡単。世界各地へ散らばって行く院生に対して基準化
された方法論などあるわけなく、状況に合わせて現地で考えろとしかアドバイスできないからだ。
後は教授が追憶に耽って語るフィールドワークの経験からヒントになる部分を盗み取るしかない。

これは過去も同じだったようで、EPがアフリカへフィールドワークに行く前に
各教授が彼に残してくれた助言を羅列している。以下、その教授と内容。

1:ウェスタマーク「インフォーマントとは20分以上話さないように。聞いている方は
  飽きてなくても20分経つと話している方は飽きてくるから。」
2:ハッドン「ただ紳士的にふるまえばそれでよろしい。」
3:セリグマン「毎晩キニーネ(マラリアの特効薬)を10粒飲んで、女性からは遠ざ かるように。」
4:ペトリー「無理してでも濁った生水を飲むようにしなさい。すぐに免疫ができるから。」
5:マリノウスキー「アンポンタン(bloody fool)じゃなければ大丈夫だ。」

なんとためになる話だろう。特にマリノウスキー。
では肝心のEP自身は読者に向かってなんと助言しているだろうか?これが素晴らしい。

「フィールドワークから何を持ち出せるかは、フィールドワークに何を持ち込むかに大きく左右される」

ようは事前に学んできた理論次第でフィールドで何が得られるかは大きく異なる、ってことだ。
EPはもちろん理論自体がバイアスになることを承知している。しかし理論的枠組みがないと
どの事実が研究のために重要なのか識別できなくなる。これは当たり前のことなんだが、
いざ現地の言語も十分理解せず混乱したままでフィールドワークを続けると難しいもんなんだろう。

「本当の戦いはフィールドワークから帰って来たときに始まる」とEPは続けている。
未研究の部族に関する新しい「事実」ではなく、いかに新しい「考え」を打ち出せるか。
そして、いかに具体的かつ詳細な記述の中に理論的結論をほのめかせることができるか。
執筆の段階ではこの二つのレベルまで到達しなければいけない、とEPは語っている。

ただのお説教ではなく、堂々と自らの民族誌で実践してきた人類学者だけにEPは素晴らしい。

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日本でフィールドワークされる方は指導教官が監修した
「Doing Fieldwork In Japan」という本があるのでご参考に。
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by fumiwakamatsu | 2005-05-19 14:46 | 文化人類学
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