今日は堅いです。
人類学者のモースという人は贈与論(Gift Exchange)という理論を提唱した。 とても単純化してまとめると、ギフトとは与え手と受け手の間に何かしらの義務的契約を成立させる。 というのも、市場という交換場所のない社会では、ギフトを与えることで受け手に負い目を負わすのであり、 その交換を続けていくうちに恒常的な規則として社会に浸透して行くからである。 これに対してデリダがGiven Timeという本の中でモースを批判している。 ギフトという言葉の前提は個人的な利益を度外視したものであり、ギフトを交換して義務が生じるならば、 それは純粋な意味でのギフトではなく、モースの言葉の使い方は間違っている、と指摘している。 「モースはギフトと交換の間に生じる不適合性について十分考慮していない。 つまり、交換されたギフトは、その時点でギフトとしての効用(つまり無私益に与えられるべきもの) が逆に無効になるという事実に気がついていなかったのである(Given Time 37ページ)」 つまり、デリダの言うギフトの不可能性とは、見返りが計算され、すでに私利益の含むような ギフトはすでにギフトではない、というこうとだ。 この指摘は正しくない。 というのも、デリダのいう無私益のギフトとは商品と対立させて考えているからである。 つまり、商品が市場で交換された場合は、その対価に金額を支払う義務が生じるが、ギフト とは誕生日プレゼントのように、個人の自由な意志から与えて見返りを期待せぬものである。 だから、交換という前提はギフトに当てはめるべきではない、とデリダは考えている。 しかし、モースは市場のない原始社会について言及しているのであって、ギフトと交換が 分離していない状況について述べているのである。 売買という行為が存在せず、どうしてもギフトが交換と繋がってしまう市場経済以前の実践について述べていたのである。 (ただし彼の贈与交換が恒常的な規則を作るという、個人の主体を無視した社会中心主義は批判されている) デリダの批判的アプローチの意義はわかる(ったつもりでいる)。 言葉の意味が生じる前には、つまり、二項対立的な差異が生じる前から、差異化運動というのはすでに始まっており(差延)、 言語内におけるこの連続的な運動は、概念を定義しようとする目的からは切り離されるべきである、ということだろう。 従って言語体系における意味の形成は記号間における明確な差異によって形成されるというソシュールの考えを批判している。 デリダにとって意味とは現存在として言語体系の中に確立しているわけではなく、外部から補足物が内部に入り込み、 本体にすり代わったり(代補)するので、記号の意味を完全に把握すること自体が不可能なのである。 だから、デリダの目的は、X=Yである、と意味を固定化させる存在者の否定を狙っていたのだろう。 しかし、上の例で見たとおり、記号の意味の固定化に対して批判するデリダさえも 自己が埋められているイデオロギーから自由になっていないのじゃないのだろうか? (この場合はギフトは交換とは相容れないと考える市場社会のイデオロギーである。) 記号間の差異によって意味が固定されないように、よく文学者は1つの記号(言葉)だけ抜き取り、 その記号の意味が固定化する前の流動性また複合性を回復させようとやっきになっているが、 はたしてその批判のプロセス自体にどれだけのイデオロギーが含まれているのか無批判な場合が多いのじゃないだろうか? その行為こそが、さらに言語至上主義を加速してしまう恐れがあるような気がする。
by fumiwakamatsu
| 2005-01-24 19:38
| 文化人類学
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