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とある人類学者のお話。

彼がハーバードにいたとき(50年前くらい)の修士修了試験は口頭だった。
当時は親族関係における義務や権利がいかに血縁によって決定されているか、
各社会を比較研究して普遍的な法則を見つけ出そうという立場が主流だった。
そこで彼が口頭試験に出向くと、指導教官であるクラックホーンという教授が次のような質問をした。

「君は生物学がいかに親族関係論に影響を与えていると考えているのかね?」

「生物学なんて糞くらえだ!その質問に答えなければいけないならとっとと辞めてやる!」

と、怒鳴って部屋を出て行ったそうだ。
クラックホーン教授はゲイであり、先天的に自分がゲイになってしまった
と正当化たいから、血が人間の行動を支配するという理論を推し進めたかたったそうだ。
しかし、血が人間を支配するなんて馬鹿げた事があるか、と彼は真っ向から対立した。
そして彼は家に帰るとすぐに奥さんに向かって荷物をたたむよう言った。

しかし、確実に試験に落ちた、と思っていた彼は無事に合格通知を受け取った。
その後、「American Kinship(アメリカの親族関係)」という本を出版し、一躍有名になった。
この本は「血は水より濃い」という考え方がいかに文化的かを説いていて、
この本が出版されて以来、生物学的な親族関係研究は終わってしまった。
(最近は生物遺伝学の研究が親族概念を再定義する点に注目が集まっているけれども)
これが、文化人類学をやっている者なら誰でも知っているシュナイダーという学者の話である。

さて、現在は口頭試験ではなく、25問ほどの質問から3つ選んで3日以内に答える、という形式。
しかし、いざ同じ過程を通って初めてわかたったんだが、シュナイダーの度胸には恐れいる。
うちの学科にいる教授陣の本をちゃんと引用して彼らの意見に沿うよう丁寧に答えた。
だって人生かかってるのにわざと反論とかしませんよ、普通。

自分のような小物はたいした学者にはなれんのかな、と少し反省中。

(ちなみに上のシュナイダーの話はアダム・クーパーの「Culture」という本に書いてあります。
文化人類学内でいかに文化という概念が使われてきたか、最もわかりやすく面白く書かれている一品です。)
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by fumiwakamatsu | 2005-01-22 16:15 | 文化人類学
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