大学時代、ウェディングシンガーのバイトをしたことがある。
サークルの友人3人とアカペラバンドを作り椿山荘で歌っていた。 なんと1回につき報酬が1万円だったのでとてもおいしかった。 (でも勝手に”クローバーズ”というダサい名前を付けれれたのは納得いかなかった。) そのときのレパートリーにAmazing Graceが入っていた。 この曲、日本人には知られてないかもしれないけど英語圏では鎮魂歌として葬式に歌われている。 しかし、そんなこと関係なしに花嫁・花婿入場のシーンで厳粛な雰囲気を醸し出す為に歌っていた。 歌っている最中、「縁起悪いことしてるなぁ」と罪悪感で噴出しそうになった。 さて、以前、LSEのMoore教授が来たとき「グロバール化の中の文化」というタイトルで講演された。 100パーセントその内容が理解できたわけではないんだが、まとめると以下のような内容だった。 文化概念は均質化を促すグローバル化と異文化を視覚化するメディアの発達により意味が変わってきた。 それは「ニューギニア人と一緒に暮らそう!」というようなイギリスで企画された団体旅行に端的に示されているように、 異文化はすでに西洋化の波で消えかけているという様に表象され、しかも、メディアなどの視覚を通じて流された情報の裏には 必ず実体験を通じて消費できる”真正”の文化がある、という具合に文化が理解されるようになった。 Moore教授は、人類学者も同じような考えで文化を捉えている、と批判していた。 彼女はアフリカのある少数民族がインドの音楽を使って宗教勃興運動をしている例を用いた。 このような例を、人類学者は「彼らは自己のアイデンティティーを規定するために、 インドの音楽を最も有効的な道具として流用するが、それはやはり真正な音楽ではない」と解釈してしまいガチである。 しかし、当人達は他者の音楽としてインド音楽を認識しているわけでなく、それはただの混合状態(Hybridities)である。 人類学者は文化表象の裏には何かしら現実があり、そこに辿り着こうとやっきになってしまうのだが、 (特に生存が脅かされている少数民族の場合)それは過ちだ。 この過ちは上に述べた近年の資本主義形態の変容(グローバル化とメディア化)に影響されていることもあるのだが、 もう1つには人類学者が言語と同じような意味合いで文化を使ってきたこともある、と言う。 つまり、記号・文字があれば必ず「意味するもの」がなければならない、と思い込んでいる。 「周りを見渡すと意味するものがない記号が溢れているのに、なぜ人類学者はそれに気付かないのか不思議だ」 と述べておられた。 じつは、この講演以来、「意味するものの無い記号」なんてそんなにあるか?と少し疑問に思っていた。 でもよく考えてみればAmazing Graceを結婚式で歌ったように自分も実践していたではないか、と気付いた。 (厳密に言うと、歌詞に意味するものはないが、演奏自体には意味がある、と思う。) 書き終わってから気付いたんだが、彼女の主張はFredric Jamesonの Postmodernism, or The Cultural Logic of Late Capitalismの論調を真似してるだけに思える。 とにかく、このように意味の無い文化・意味の無い記号というのを前提にして物事を考えると以外と世界が変わって見えるかもしれない。 P.S Moore教授はおそらく来年からうちの学科に来そうだ。 イギリス人類学者を増やしたいH教授にとっては嬉しいことこの上無いだろう。
by fumiwakamatsu
| 2005-01-03 18:39
| 文化人類学
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