檸檬

大晦日の昼、いつものように1人でソファーに座りながら本を読んでいた。
朝からひどく鬱気味で、何を読んでも頭に入らない。少しだけ読んでは次の本に移るという悪循環に陥っていた。
しかし3時頃、曇っていた空が一瞬だけ明るくなった。その閃光が部屋に差し込んだ時点で
「書を捨てよ、街に出よ」という気分になり本を閉じた。

梶井基次郎ばりに檸檬でもポケットにしまい込もうかしら、
と思ったがバナナしか手元に無かったので手ぶらで外に出た。
宛先は考えていなかったが、とりあえず筋書き通り隣町にある古本屋へ向かう。
普段は歩くだけで気分が優れてくるものなのだが、昨日だけは
通りを走る車の騒音や汚く残った歩道の雪がひどく腹立たしかった。
「そうだ、この大きさなんだよ」と呟ける檸檬がポケットに無いのがいけなかった。

地下鉄で隣の駅のDavis Sqには歩いて20分ほど。
この街はゲイのメッカであり、小奇麗で洒落た店が多い。
そしてタフツ大学も近いので雰囲気が若い。
お気に入りのMcIntyre and Moore Booksellersに到着。
例え学生街として有名なボストンでも人類学セクションだけで本棚3つ分もあるところはここ以外にない。

今日は西洋絵画セクションへ足を運ぶ。 
目の前には印象派の画集が並んでいる。
おもむろに画集を取っては床に広げ、
紫、深緑、赤などの色が重なるように置いていく。
そして最後の仕上げに檸檬を一個置いて
「ふふふ、時限爆弾を仕掛けたぞ」といい気になって店を出た。

と、妄想は膨らむものの檸檬も何もないので真っ直ぐに人類学セクションに向かった。
ここの古本は質もよく値段も定価の半額以下なので、長居すると余計なものまで買ってしまう。
結局、GeertzのAvailable Lights、Ohnuki-TiernryのThe Monkey as Mirrorの2冊(18ドル)を買う。
「ここが京都の丸善だったら余計に画集なんて床に置けないな」、と店を出るとき、梶井の行動に疑問を持った。

やはり現実は小説の如く進まず、また、小説のように綺麗なエンディングが無い。。
夜は留学生同士で年越パーティーに行く予定だったのだが、家に着くと、もう一歩も外に出たくなくなった。
風邪をひいたので欠席する、と主催者の子に電話して嘘をつき、部屋で買ってきた本を読み始めた。
するといつの間にか寒気がしだした。本当に風邪を引いてしまったようだった。
昼寝して起きるともう8時半。その後は、テレビを見ながら呆然と過ごす。

12時前になると腹が減り出したので餅を四つほど焼いた。
醤油だけ付けたのでは素っ気無いので何か他に付けるものがないか冷蔵庫をまさぐる。
すると奥からレモンが出てきた。ルームメイトのだがこの際気にせず頂戴した。
カットして餅の上で絞り醤油と混ぜる。熱いので持ったらすぐ口に入れた。

「、、、うんめぇ」

そう呟いたときにはタイムズスクウェアの銀球が落下し、2005年になっていた。
紙吹雪と人々の笑顔がテレビ画面に溢れていた。そして、不思議と自分もそこにいて皆と祝ってるような錯覚になった。

しょせん、檸檬。されど檸檬。
ちょっとした酸味がこの1年の厄を取り払ってくれたような気がする。

あけましておめでとうございます。今年度もよろしく。
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by fumiwakamatsu | 2005-01-02 15:54 | 雑記
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