精神衛生

「世界の不幸を祝うためにクリスマスに闇鍋しない?」

とギロついた目でFは言った。1ヵ月ぶりに会った彼はすっかり変わっていた。
図書館で勉強している合間にダンキンドーナッツに行くと、Fが難しい顔をしながら虚空を眺めていた。
彼のテーブルに同席すると理解不能な数式がびっしり書かれていたノートがあった。
文系人間には、彼の秀才ぶりがさっぱりわかない。おそらく自分には想像できない抽象的思考が可能な人間なんだろう。

Fは東大出身の同学年の友人。年齢も同じ。
英語研修を一緒に受けていたので仲が良くなり、キャンパスで会っても必ず立ち話をする。
FはPhD2年目にして論文を出版しようとする野心家で、話をするたびに刺激を受けていた。
会話英語はいまいちなんだが、最も抽象度の高い経済理論なので数学さえできればなんとかなるそうだ。

しかし、今日の彼は明らかに鬱に入っていた。
まだ本人も鬱だと自覚しているのでそこまでひどくはない。
話を聞くとやはり遠距離中の彼女と別れたそうだ。それだけならいいのだが、
別れた彼女から不気味なメールや電話がかかって来てどうにもならないらしい。
その上学科内でも孤立気味で、友人関係も上手くいってないようだ。
目つき、挙動、言動の全てが昔と変わっていて思考もネガティブになっていた。

しかし、彼と話していて痛いほど気持ちがわかった。
ここの大学院に来てからは常に綱渡りをしているような心境だ。
もし失恋などの大風に吹かれたらすぐに奈落に落ちて行くと思う。
だから「勉強ばっかりできて羨ましいね」などと言われたときには
たとえ相手に悪意は無くても、心の底から腹立たしくなるときがある。

今年はだいぶ楽になったが、去年1年は自分もかなり不安定な状態だった。
爪を噛む癖があるので、右手の親指の爪が3分の1削られた。血が出ても噛み続けていた。
会話はどもり、論理的じゃなくなり、不眠症が続き、タバコの吸いすぎで肺がパンクしそうだった。

「結果的には時間が解決してくれるもので、鬱は焦っても仕方がない、と思う。
あと、恥なんて思わずに大学のカウンセラーを利用してみるのも悪くないんじゃない?」
と、アドバイスをしておいた。できれば闇鍋に参加したかったのだが、クリスマスは他に先約があって無理だ。
新しく彼女ができれば事も上手く進むと思うんだけれども。(どなたか憂鬱気味の秀才が好みでしたらご連絡下さい。)

とにかく、彼の才能が学問とは何も関係ないことで台無しにされないよう祈るばかりだ。
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by fumiwakamatsu | 2004-12-20 15:15 | 雑記
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