昨日、「アバター」という映画を観に行った。日本ですでに公開されているのかは知らないけれど、「タイタニック」を撮ったジェームズ・キャメロン監督の新作。極めて簡潔に内容を要約すると、ある惑星に鉱物資源を開発しに行った人類が、そこに住む原住民(原住宇宙人?)と紛争状態になり、その解決のために軍隊が原住民の体に人間の心を転送する装置を作り、スパイとして送り出す。つまり、見た目はまったく原住民なんだが、中身が人間(これがアバターと呼ばれている)の主人公が、現地の習慣や生活様式を学んで行き、その内容を軍部に伝えることで原住民の征服を容易にさせるわけなのだけれど、その間に原住民の娘と恋に陥り、彼らの世界観に感銘し、結局は軍隊に反逆して最後はお決まりのハッピーエンド、やれわっしょい、という内容である。映像のほとんどがCGで作られただけでなく、特殊な眼がねを着けて3Dで映像が見れることから、アメリカでは人気爆発中、やれわっしょい、というわけである。
人類学を学んでいる者としては、非常に複雑な気持ちにさせられる映画である。まず第一に、この主人公の役割は、実際の紛争地域に派遣される人類学者の役割をモデルにして作られたであろう点。過去も現在も、人類学者はアメリカの軍隊と密接に関わっており、紛争地域の住民の中に「溶け込む」ことによって、現地の社会構造や生活様式を「内部の視点」から軍部に伝え、植民地的統治を容易にする役割を果たしてきた(現在のアフガンやイラクにも人類学者は結構います)。アバターの場合は、ただ舞台が他の惑星に変わっただけである。第二に、自然=文化という人類学者の作った単純な神話が、アバターの原住民に投射されている点である。アマゾンの奥地のような場所に原住民達は住んでおり、彼らは森や動物や大地と心を通わせることができる設定になっている。ようは、機械文明に侵された人類に対比する形で、自然と共に生活する「高貴な蛮人」としての原住民のイメージが構築され、そこに善悪の二項対立が刷り込まれる単純なプロットが生まれるわけである。ジェームズ・キャメロンは人類学の負の遺産をわざと抽出してこの映画を作ったのか?と疑いたくなるような映画であった(本人は良かれと思って作ったのだと思うけど)。 そして、これは手垢の着いた批評だが、結局この映画のあらすじは白人優位主義を上塗りするためのイデオロギーに過ぎない、という点である。「ダンス・ウィズ・ウルヴス」然り、「ラスト・オヴ・サムライ」然り、原住民(もしくは現地民)の内部に同化していく白人男性が、その中で指導者の地位を確立していき(途中で現地の女性と恋に陥ってセックスし)、同じ白人、もしくはそれに代表される西洋文明という敵に抵抗するために、その白人男性の指導の元で原住民が団結して戦うわけである。このプロットに見られる白人優位主義とは、単純な「白人対非白人」という対立関係を超え、白人(もしくは西洋文明)に対する抵抗という主体的な関与すらも、結局は「おめえら白人に頼らないと何もできないんだぜ」というメッセージを刷り込ませることによって、一枚上手のイデオロギーが上塗りされるわけである。さらに、途中である原住民女性とのセックスは、「白人にしかお前達の最上級の女性は占有できないんだぜ」というメッセージを送ることで、象徴的に原住民男性の権力を去勢する効果があるとも解釈できる。アバターは、幾分違わずこのプロットに当てはまってたわである。 さて、植民地主義や白人優位主義の批判的解釈をハリウッド映画にするのは、結構誰でもやっていることなのでどうでもいいのだが、個人的にこの映画の斬新さに惹かれたのは「仮想の原住民」というのが非常に丁寧に作り上げられている点である。上にも述べたように、この映画はほぼ完全にCGで作られているため、登場人物はあくまでも仮想に過ぎない。人類学を学ぶ者がこの映画を観ればすぐわかるのだが、アバターの原住民達は、驚くことに、モヒカン族の頭髪を持ち、マオリ族の刺青を身体に刻み、バリ人達のケチャダンスを踊ることが出来る。つまりは、実際にいる異なる原住民の要素を圧縮して作られたのがこのアバターの原住民である。おまけに、「ナウシカ」や「もののけ姫」などにジェームズ・キャメロンは明らかに影響されており、動物と原住民との意思疎通の仕方が宮崎駿流なのである。この「どこにでもいるはずなのに、どこにもいない」という仮想と現実が交錯した形で原住民のイメージが作られているところが、おそらくこの映画の新しい点であり、また今後CG映画が主流になっていく上で、再生産される可能性があるのではないだろうか。それがどのような効果を生むのかは別として、個人的には新たな形のフェティッシュが生まれたな、と考えている。 と、いうわけでビールを3本飲みながら適当な映画批評をしみました。何にせよ観る価値のある映画です。やれわっしょい。
by fumiwakamatsu
| 2009-12-22 16:46
| 文化人類学
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