もし「明日」を表す言葉と「昨日」を表す言葉が同じ社会に生まれたらどんな時間の感覚なんだろう?直進ではなく循環する時間。「時は金なり」という近代的価値観にすっかり染まってしまった我々からは全く想像できない。
この本はパプアニューギニア高地に住むゲブジという部族について書かれた民族誌。著者が20年前に初めてこの部族を訪れたときは、まだ外部との接触が少なく、まさしく「未開」の世界だった。例えば (1)魔女狩で住民の2割が殺される。突然死や事故で亡くなった人間は必ず部族内の誰かに魔術をかけられて殺されたと信じられている。魔女と疑われた人間は拷問で殺された上、その肉は食べられる。 (2)男の子が成人するときは大人の精子を飲み干す通過儀礼がある。成年男子の精子は成長を促進すると考えられており、少年と成人の同性愛は普通としてみなされる。 (3)もちろん貨幣などなく物々交換。石器で殺した獲物を部族内でその日のうちに交換しあう。 まあ、B級のホラー映画に出てくる「人食い族」を思い浮かべて頂ければ差して外れてないだろう。 では、こんな社会に近代が浸透すればどうなるか?最初の調査から20年経ったあと、著者のKnauftはまた同じゲブジ社会に戻る。 そこは全く異なる世界だった。 学校が建設され、キリスト教会が普及し、市場ができあがり、警察が統制している。 魔女狩は信仰上は残っても行動にまで移らなくなり、同性愛は厭まれ、 貨幣が浸透し、武力で争いを解決する前に警察の介入に頼るようになった。 たった20年の間に、だ。 問題は、ゲブジの人々が過去の生活習慣を振り返ったときに、自分達を「未開」の人間として認識するようになったことだ。 そして、外部組織に対して従順に従い、文明の刺激を全て受け入れるようになった。 近代がもたらした時間の感覚の変化に飲み込まれてしまったように。 (つづく)
by fumiwakamatsu
| 2004-11-20 10:14
| 文化人類学
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